「自分には関係ないと思っていたが健診で脂肪肝と診断された」「そこまで太っていないのに脂肪肝になってしまった」といった方はいませんか?「脂肪肝」はその名前からも、太りすぎの人がなりやすいものだと想像しやすいですが、実は太っている人以外でも脂肪肝になる可能性があり、あなたもその1人かもしれません。脂肪肝とは具体的にどのような病気で、なぜ太りすぎでなくても脂肪肝になってしまうのか、そもそも肝臓とはどういった臓器であるか、今回は見ていきたいと思います。
肝臓の役割とは?

肝臓について、「お酒を飲み過ぎると肝臓に悪い」「上半身の真ん中あたりにある臓器」といった何となくのイメージをお持ちの方も多いかもしれません。肝臓は成人の場合、重さはおよそ1~1.5kgで、体重の50分の1程度を占めており、なんと人間の臓器の中で最も大きいといわれています。
肝臓の主な働きは①代謝②有害物質の解毒・分解・排泄③胆汁の分泌の3つです。
①代謝:体に必要な栄養素(炭水化物・脂肪・タンパク質)を体が利用しやすいように分解・合成し、貯蔵をする役割を担っています。
②有害物質の解毒・分解・排泄:摂取したアルコールや体内の老廃物など、身体にとって有害な物質を毒性の低い物質に変え、体外には排泄するはたらきがあります。
③胆汁の分泌:胆汁とは、肝臓の中で常に分泌されている緑色の液体で、脂肪の乳化とタンパク質の分解を助けることで脂肪の消化に必要となるものを指します。この胆汁を生成し、分泌するのも肝臓の役目です。
肝臓のはたらきは主にこれら3つですが、肝臓は本体を少し切り取られても再生が可能な「再生機能」を持つ唯一の臓器であることでも有名です。さらには、肝臓自体に悪い部分が生じた場合、その部分を補う機能も持っており、すぐに症状化しないことからも「沈黙の臓器」とも呼ばれています。このように、肝臓は非常に優秀かつ万能であり、人間の生命維持には必要不可欠な臓器であることがわかります。
肝臓の状態を調べるには?
肝臓について、備わっている機能やはたらきから、優秀な臓器であるとご紹介しました。
一方で「沈黙の臓器」と呼ばれるほど、炎症などが起きた際の自覚症状が出にくく、炎症に気付くことが難しい臓器でもあります。そんな肝臓の万一の異常について早期発見をするためには、一体どのような検査を受けることが望ましいのでしょうか?
肝臓を調べる検査は大きく分けて①血液検査②画像検査③肝生検の3つがあります。
血液検査
採取した血液を数値化し、異常があるかどうか調べる検査です。主に肝機能検査やウイルスマーカー検査、腫瘍マーカー検査があります。肝機能検査では肝細胞のはたらきであったり、肝細胞の障害の程度や胆汁の流れに異常がないかなどを検査します。
健診でよく調べる項目
健康診断の際に血液検査を受ける方も多いと思いますが、健診で肝臓についてよく調べている項目は下記の3項目です。
AST(GOT):アミノ酸を作り出す酵素の1つで、肝臓の他にも心臓や筋肉などに存在しています。
ALT(GPT):こちらもアミノ酸を作り出す酵素で、肝臓と腎臓に存在しています。
γ-GTP:タンパク質を分解する酵素で、腎臓や膵臓、肝臓、脾臓などに含まれています。
基準値 | 値が高いと疑われる病気 | |
AST(GOT) | 7~38 IU/L | 急性肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝など |
ALT(GPT) | 4~44 IU/L | 急性肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝など |
γ-GTP | 男性:80 IU/L以下 女性:30 IU/L以下 | 急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がんなど |
画像検査
画像検査には、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査があります。超音波検査では腹部の表面に検査機器を当て、内臓の状態を画像で確認する検査です。CT検査では、X線を照射し、それで得られたX線吸収値によってからだの横断面を撮影する検査です。MRI検査は、強力な磁石を用いて体内の水素原子核を画像化する検査です。他の検査と比較しX線被ばくがないことや、撮影した画像のコントラストがより鮮明である特徴があります。血管造影検査とは、細い管を大腿動脈などへ挿入し、肝臓の血管に造影剤を注入してからCTでX線撮影をする検査です。がん治療の手術の検討材料として用いられます。
肝生検
肝生検とは、肝臓の組織を採取して顕微鏡で調べる検査であり、病理診断を目的に行われるものです。腹部に小さな穴をあけ、特殊な針で直接肝臓から細胞を採取するもので、直接病理組織を確認できるため重要な検査法となります。
肝臓を調べる検査について3種類ご紹介しましたが、主に行われる検査は①血液検査と②画像検査です。③肝生検は画像検査により見つかった疾患の原因などを診断するために行われるため、あらかじめ何らかの検査を経た上で行う検査となります。
肝機能が低下したらどうなる?
「肝機能障害」という言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか?
肝臓の機能について、①代謝②有害物質の解毒・分解・排泄③胆汁の分泌の機能の3つであると紹介しましたが、肝機能障害とは、肝臓に何らかの原因で炎症が起こることでそれらの機能が低下し、肝細胞が壊されてしまい、血液検査で肝機能の異常値を示すことをいいます。
肝機能障害と聞くと、激しい痛みや辛い症状を想像される方もいるかもしれません。
しかし、そのイメージとは反対に、肝機能障害は非常に厄介なもので、急性肝炎の場合でも「疲労」「倦怠感」「発熱」など風邪のような症状が出ることが特徴とされています。初期の慢性肝炎の場合でも特に症状が現れないことも珍しくなく、「沈黙の臓器」と呼ばれるほど自覚症状が出にくいとはまさにこのことを指します。
どれも初期段階で肝機能の低下であると自己判断することが難しいため、肝臓を調べる検査を積極的に受けることが自身の健康を維持する為に大切となります。
特に慢性肝炎が悪化した場合には、最終的には肝硬変や肝不全、さらには肝がんへ進行するなど、症状が深刻となるケースもあります。風邪のような症状だと「まさか自分が」と軽く考えてしまいがちですが、手遅れにならないよう、きちんと検査を受けましょう。
【解説】よくある腹部超音波検査の所見
肝臓を調べる検査のなかで「腹部超音波検査」をご紹介しました。
腹部超音波検査とは前述のように、腹部に発信した超音波の反射波を利用して行う検査です。X線検査とは違い被ばくすることがなく、検査時の苦痛もほとんどない検査であることが特徴です。特に気になる症状が現れ始めるとされている40代以上の受診が推奨されています。こちらでは、腹部超音波検査では具体的に肝臓のどのような症状がわかるのか、主な所見やその内容について解説します。
■脂肪肝:文字通り、肝臓に脂肪がたまっている状態を指します。原因としては主に生活習慣との関わりが深く、高血圧や糖尿病など生活習慣病との合併率も高い疾患です。
■肝内石灰化:肝臓にできたカルシウム沈着を指します。過去肝臓に損傷や結核、寄生虫、出血などが生じ、治癒した部分が多くを占めるため、放置しても問題ないケースがほとんどであるといわれています。
■肝内胆管結石:肝臓内部の胆管にできた結石を指します。治療が困難であり、高確率で治療後に再発するといわれています。診断を受けた場合、胆管が膨張していたり狭くなっていたりする場合があり、精密検査を受ける必要があります。
■肝内胆管拡張:肝臓内の胆管が通常より太くなっている状態を指します。原因としては総胆管胆石や胆管腫瘍などが考えられますが、これらは腹部超音波検査だけでは判別がつかないため、精密検査を受ける必要があります。
■肝嚢胞:液体が溜まった袋状の病変を指します。通常は自覚症状がないといわれていますが、嚢胞が大きくなるにつれ腹部膨満感や圧迫感といった症状が認められることもあります。
■肝血管腫:良性で海綿状をした血の溜まった腫瘍を指します。健康診断の検査で発見されることが多く、ほとんど問題がない症状ですが、大きさによっては念のため精密検査が必要となります。
■肝腫瘤:腫瘍の可能性が低い結節像を指します。精密検査を受ける必要はありませんが、経過観察の必要があります。
■肝腫瘍:肝臓の腫瘍には良性のものから悪性のものまで様々で、その鑑別のために精密検査を受ける必要があります。悪性腫瘍の場合、原発性腫瘍と呼ばれる肝臓自体から発生した腫瘍と、転移性腫瘍と呼ばれる他の部位から転移してきた腫瘍があります。特に原発性腫瘍では肝臓がんが多くを占めるといわれています。
■慢性肝障害:肝障害が継続的に起こっている(起こっていた)ことが考えられます。原因としては飲酒、脂肪肝、B型肝炎、C型肝炎、自己免疫性肝疾患などが挙げられます。原因や進行度をみるため、精密検査を受ける必要があります。
こちらに記載した所見は一部ですが、腹部超音波検査では痛みを伴わず比較的楽に受けられるにも関わらず、多くの異常や特徴を発見することができます。
年齢に関わらず、血液検査と合わせて、一度検査を受けてみるのはいかがでしょうか?
太っていなくても脂肪肝になる?
腹部超音波検査でのよくある所見として「脂肪肝」を挙げましたが、脂肪肝の原因として、太りすぎやお酒の飲み過ぎが主な原因であると考えていませんか?
上の図は脂肪肝の年代別罹患率を表しています。実は意外にも脂肪肝は日本人にとって身近な病気であり、日本人の3人に1人が脂肪肝であることがわかります。しかしながら、「私はお酒を飲まないから関係ない」「まだ若いから大丈夫」と考える方は多いのではないでしょうか。
脂肪肝は怖い病気であり、誰しもが気を付けて生活をする必要があります。
こちらでは放っておくと危険な脂肪肝について、その種類なども含めてフォーカスします。今後脂肪肝になって苦しまないためにも、脂肪肝について、少しでも学んでいきましょう。
そもそも脂肪肝とは?
脂肪肝は文字通り肝臓に中性脂肪がたまった状態を指し、脂肪が肝細胞全体の3割を占める場合、脂肪肝と診断されます。肝臓の疾患ということもあり、お酒の飲み過ぎで脂肪肝になるイメージが強い方もいるかもしれませんが、実は日本人の脂肪肝の原因はお酒の飲み過ぎではなく、「食べ過ぎ」によるものであるといわれています。
脂肪肝となる主な原因として、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることが挙げられます。つまり、お酒の飲みすぎはもちろん、食べすぎも脂肪肝の原因となります。
余分に摂取したエネルギーが余分な脂肪酸やブドウ糖となり、中性脂肪として肝臓に蓄えられてしまうのです。少しずつ中性脂肪が蓄積することで、脂肪肝が出来上がってしまいます。
脂肪肝には種類がある?
脂肪肝には脂肪肝となる原因や症状などで種類が分かれています。
まずは、大きく原因別で①アルコール性脂肪肝②非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD ナッフルド)の2種類に分かれます。
①アルコール性脂肪肝:アルコール性脂肪肝とは文字通り、アルコールを過剰に摂取することが原因となり、肝臓に中性脂肪がたまる場合を指します。アルコールが分解される際に中性脂肪が合成されやすくなることが特徴です。
②非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD ナッフルド):こちらは①のアルコール性脂肪肝とは異なり、アルコールの摂取ではなく、食べ過ぎが原因となって肝臓に中性脂肪がたまる場合を指します。日本人に多いとされているタイプはこちらです。このタイプは特に、お酒を飲まない人が罹患するだけではなく、若い方にも増えており、従来の中高年やアルコールをよく飲む人がかかるイメージとは異なっている為注目されています。
どちらも原因がそれぞれアルコールや食べ過ぎと聞くと軽いイメージを持ちやすいですが、放っておくと狭心症や心筋梗塞などの心疾患と合併率が高いものとなっており大変危険です。またどちらも生活習慣との関わりが強く、生活習慣病の温床となることもわかってきており、注意が必要です。
さらに、②非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD ナッフルド)は②-1 単純性脂肪肝と②-2非アルコール 性脂肪肝炎(NASH ナッシュ)の2種類に分かれます。
こちらは症状の重さ別にタイプが分かれており、②-1単純性脂肪肝は症状が軽く改善しやすいタイプで、②-2 非アルコール性脂肪肝炎は放置すると肝硬変、肝細胞がんへと進行することが知られている危険なタイプです。
どのような症状が出る?
脂肪肝は肝臓に中性脂肪がたまるものであると紹介しましたが、実際にどのような症状が起こるのでしょうか?
具体的な症状としては、脂肪肝になることで血液がドロドロになり、血流が悪くなることによって全身の細胞に酸素と栄養分が十分に行き渡らなくなり、体の倦怠感や肩こり、頭がぼーっとするような症状が現れることはありますが、痛みなどの自覚症状はほとんど無いと言われています。
自覚症状がない分、軽視して放置してしまいがちですが、脂肪肝を放置すると肝臓の線維化が進行し、慢性肝炎となり、症状が進行した場合は肝硬変や肝臓がんへと悪化してしまうケースも存在しています。
やはり定期的な健康診断の受診であったり、検査の受診が脂肪肝を防ぐ上で大切であることがわかります。
健康な肝臓を取り戻すには
脂肪肝は実は危険な病気であるとお伝えしましたが、実際に「健診で脂肪肝と指摘されてしまった!」「脂肪肝かもしれない…」といった場合、どのような治療が効果的なのか、気になるところですよね。
残念ながら、実は脂肪肝には特効薬のようなものはありません。
脂肪肝の種類による場合もありますが、ほとんど全て「生活習慣の改善」がキーポイントとなります。日常生活の食事生活に気を遣ったり、運動習慣を作ったり、バランスの取れた健康的な生活が必要不可欠となります。
食事面について
バランスのとれた食生活を1日3食とることが大切です。具体的には、1食のうちで主食1品、主菜1品(魚、肉、卵、大豆製品)、副菜2品(野菜、きのこ、海藻類)を摂取するように心がけましょう。特に最近ではコンビニでも低糖質の商品が販売されるなど、健康志向の方向けの商品もありますので、栄養成分についても注目するようにしましょう。間食を控えると果物を食べてしまいがちですが、果物には果糖が含まれており、意外にも糖質が高いので気を付けましょう。もちろん、お酒を飲むこともできるだけ避けたり、糖質が低いものを選ぶなど、選択肢を広げることも大切です。
運動面について
1日に30分以上のウォーキングを日々継続することが好ましいといわれています。1日に8500~9000歩程度歩くことも大切ですが、いきなり激しい運動や長時間のウォーキングを始めるのではなく、コツコツ持続的に運動することを意識しましょう。軽い散歩から始めるのもよいかもしれません。
特効薬が無い分、時間はかかりますが、着実に健康な生活を取り戻すことが改善方法です。
脂肪肝の疑いがある方はぜひ、今一度自分の食生活や運動習慣を見直してみてはいかがでしょうか?その先には、美味しいものを適度に食べることができ、運動も楽しめる生活が待っているかもしれません。
【参考】
肝炎.net ブリストルマイヤーズスクイブ
肝臓の役割と肝臓の病気 大塚製薬
「疾肝啓発」 あすか製薬
肝臓 中外製薬
肝臓検査.com 株式会社インテグラル
消化器系疾患 のなか内科
肝機能障害とは? ハウス食品
腹部超音波は何のため? ここカラダ
検査結果の見方 日本予防医学協会
脂肪肝の基礎知識 天野クリニック
血液検査結果の見方 駒込病院
脂肪肝とは(症状・原因・治療など) ドクターズ・ファイル
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脂肪肝 e-ヘルスネット(厚生労働省)
本当はコワイ脂肪肝 サワイ健康推進課
腹部超音波 日本人間ドック協会
NAFLD・NASH 日本成人病予防協会
腹部超音波 日本人間ドック学会