腹部超音波検査は人間ドックの検査項目に含まれていたり、健康診断のオプション検査としてみたことのある人は多いのではないでしょうか。実際にどんなことをみているのか、どんな検査なのかについて医師監修の上、ご説明します。
腹部超音波検査ってどんな検査?
腹部超音波検査では、腹部の皮膚の表面部分に超音波を発信する装置をあてます。内臓からの反射波をその装置が受けとって、電気信号に変えてモニターに写します。肝臓、腎臓、胆嚢、膵臓、脾臓等の病変の有無を調べる検査です。
腹部超音波検査は痛くない
腹部超音波検査は皮膚の表面部分にゼリーをつけてその上を超音波の機械を滑らせる検査なので痛みを伴うことはありません。少しくすぐったさを感じる人はいるかもしれません。検査中は息を吸ったり吐いたり止めたりするように指示されたり、体の向きを変えることがあると思いますが、臓器をみえやすい位置に移動させるためです。従いましょう。
腹部超音波検査を受ける前には食事を控えよう
腹部超音波検査を受ける前には基本的に食事制限があります。受けられる病院によっても異なると思いますが、検査前10時間は絶食を指示されることが多いと思います。食事をすることで胃がふくらみ、膵臓がみえにくくなったり、胆嚢が収縮したりしてしまうため、病院の指定通り食事は我慢しましょう。水や白湯であれば摂取しても問題ないことが多いです。
腹部超音波検査で肺はみれません
腹部超音波検査では”骨”と”ガス”はみえません。みえるのは”骨よりやわらかく、ガスを含まないもの”と”水”です。
検査後の食事は問題なし
腹部超音波検査後の食事については特に問題ありません。腹部超音波検査後に胃部内視鏡検査などを受けられた場合には、胃部内視鏡検査の喉の奥の麻酔の関係で食事制限が伴う可能性がありますので指示に従いましょう。
腹部超音波検査を受けたほうが良い人は?
腹部超音波検査は40代以上の人は毎年受けたほうが良い検査です。膵臓や胆嚢などは特にがんが見つかりにくい臓器ですので超音波で観察することはお勧めします。肝臓も「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状がないまま病気が進行することも多いので超音波検査を受けて定期的に観察することが重要です。近親者でがんに罹患した人がいる方も要注意です。CTやレントゲンのように被爆の心配がなく安心な検査です。
腹部超音波検査を受けるメリット/デメリット

具体的にどんなメリット・デメリットがあるのかみてみましょう。
メリット
・被ばくの心配がない(非侵襲的)
・胎児にもつかえるほど安全で苦痛もない
・腹部の多くの臓器を観察できる
・リアルタイムで動態画像の観察がおこなえる
デメリット
・検査を行う技師の技量によるところもある
・検査時の条件により見え方が異なる
ex.)ガスや便が溜まっているとみえづらく膀胱に尿が溜まっているとみえやすい
相対的にみて、腹部超音波検査を受けるメリットのほうが大きいですね。万全の状態で検査ができれば、広範囲をリアルタイムで観察できる検査だとわかります。
腹部超音波検査で何がわかるの?

腹部超音波検査では具体的にどのようなことを指摘されることが多いのでしょうか。人間ドックの結果などで異常を指摘されたことがある人もいると思いますが、下記が臓器ごとの主な所見と所見から考えられることです。
肝臓の主な所見
肝臓はヒトの体で最も大きい臓器です。肝臓の主な働きは3つあり、蛋白の合成・栄養の貯蔵、有害物質の解毒・分解、食べ物の消化に必要な胆汁の合成・分泌です。
肝血管腫
血管から構成される肝臓の代表的な良性腫瘍です。徐々に大きくなることもあるので定期的な経過観察が必要です。初めて指摘された場合には精査もご検討ください。
脂肪肝
肝臓に脂肪が過剰に蓄積した状態です。内臓脂肪型肥満や飲酒が原因であることが多いです。脂肪肝から肝硬変・肝細胞がんへ発展することがあり、脂肪肝がみられる人は生活改善が必要です。
肝腫瘍
良性か悪性かの鑑別のため、精密検査を受けてください。良性腫瘍には肝嚢胞、肝血管腫などがあります。悪性腫瘍は原発性肝がん、転移性肝がんに分類されます。肝内の門脈・胆管の走行をみて胆管拡張像の発見を契機として胆管腫瘍が指摘されるケースもあります。他に日本住血吸虫という寄生虫感染症を指摘できるケースもあります。肝臓の硬さを測定する機器もあり、肝臓の形態評価がとても大事と考えます。なお息止め不十分な場合や、肥満、脂肪肝が原因で描出不良となったために診断が遅れることも十分あり得ます。
肝嚢胞
液体が貯留した袋状の病変です。単発あるいは多発し通常は無症状ですが、嚢胞が大きくなると腹部膨満感、圧迫感等の自覚症状が認められることもあります。
慢性肝障害
肝障害が継続的に起こっている、あるいは起こっていたことが考えられます。慢性肝障害の原因として、飲酒、脂肪肝、B型・C型肝炎、自己免疫性肝疾患などがあります。原因を明らかにすることと、現在どの程度まで進行しているのかなど精密検査を受ける必要があります。
腎臓の主な所見
腎臓はそらまめのような形をした握りこぶしくらいの大きさの臓器で、腰のあたりに左右対称に2個あります。老廃物を体から追い出す、血圧の調整、血液を作る指令を出す、体液量・イオンバランスの調整、強い骨を作るという役割があります。
腎腫瘍
腎臓の腫瘍には良性腫瘍から悪性腫瘍まで色々な腫瘍があります。良性か悪性かの鑑別のため、精密検査を受けてください。悪性腫瘍の代表的なものは腎細胞がんです。
腎石灰化
腎実質に、カルシウムが沈着した状態です。様々な原因で石灰化がみられます。多くは良性所見であり、経過観察で問題ないことがほとんどです。
腎嚢胞
液体が貯留した袋状の病変です。単発あるいは多発し、加齢とともに発生頻度が増加します。ほとんどの場合経過観察で問題ありませんが、嚢胞が大きく、周辺臓器への圧迫症状や破裂の危険性がある場合や、水腎症をきたす場合(傍腎盂嚢胞)などは治療(外科的手術など)の適応となることがあります。
腎の変形
腎臓は左右に各1個ありますが、左右で大きさが違ったり、左右がつながっている(馬蹄腎)場合などがあります。特に心配はありません。
胆嚢の所見
胆嚢は肝臓で作られた胆汁を溜めておく働きをします。肝臓と十二指腸をつなぐ管の途中にあります。
胆管拡張
肝外胆管が拡張した状態です。胆管結石や腫瘍が疑われる場合には精密検査が必要です。
胆泥
濃縮胆汁や感染に伴う炎症性産生物のことですが、胆嚢がんなどの腫瘍と似た超音波像を示すため精密検査が必要です。
胆嚢腫瘍
胆嚢には良性の腫瘍(多くは胆嚢ポリープ)だけでなく、胆嚢がんなどの悪性の腫瘍ができることもあります。腹部超音波検査のみでは確定診断ができないことが多いので、早急に精密検査を受けてください。
胆嚢腫大
胆嚢が腫れた状態です。一番多い原因は胆嚢の炎症で、症状がなくても経過観察をお勧めします。胆管結石や腫瘍などにより胆汁の流れが滞ったときにも認められ、この疑いがあれば精密検査が必要です。
胆嚢ポリープ
胆嚢の内側にできる隆起です。人間ドック受診者の10%程度にみられると言われています。10mm未満でかつ良性であることを示す所見が認められる場合は問題ありません。
胆石
胆嚢内に結石を認める状態です。胆管という胆汁通路に胆石が落下すると腹痛や、発熱、黄疸などの症状が出現します。治療適応については胆嚢壁厚、胆石成分、胆嚢機能も考慮されます。無症候性で初回指摘時に問題ないとなれば、経年観察することが多いです。
膵臓の所見
膵臓は、胃の裏側にある長さ15~20cmの細長い臓器です。「膵液」という消化液を分泌することで、食べ物の消化を助けます。また、インスリンなどのホルモンを分泌し、血糖値を一定濃度にコントロールする働きがあります。
膵腫瘍
膵臓の腫瘍には良性から悪性まで色々な種類の腫瘍があります。代表的な悪性腫瘍である膵がんは、大きくなると周囲の血管などにも影響が出ますが、ごく初期には悪性の特徴を捉えることが難しいことが多いです。膵腫瘍が見つかったら早急に精密検査を受けてください。
膵腫瘤
腫瘍の可能性の低い結節像(炎症後の瘢痕など)を脾臓内に認めます。精密検査の必要はありませんが、経過観察を受けてください。
脾臓の所見
血液中の古くなった赤血球を壊す働きをしています。また、体内に入ってきた病原菌や細菌などと戦う抗体を作ったり、新しい血液を溜める働きがあります。
脾腫
超音波で脾の最大径が10cm以上の場合を脾腫としています。軽度の脾腫は病気ではありません。原因が感染症(肝炎、マラリア、結核など)、腫瘍(リンパ腫、白血病、骨髄線維症など)、貧血、蓄積症(アミロイドーシス、ヘモシデローシスなど)、うっ血肝(肝硬変、バンチ症候群など)、膠原病など多岐にわたるため精密検査が必要な場合があります。
副脾
脾臓の近くに脾臓と同じ組織像をもつ1~2cm大の腫瘤のことを副脾と呼びます。病的意義はなく特に治療の必要性もありません。
その他の所見
腹部腫瘍
腹腔内腫瘍、後腹膜腫瘍(副腎・尿管・大動脈・下大静脈・交感神経幹などの腫瘍)、骨盤内腫瘍(膀胱・前立腺・直腸・卵巣・子宮などの腫瘍)が含まれます。腫瘍臓器の特定と良・悪性の鑑別診断のため精密検査が必要です。
腹部大動脈瘤
心臓が血液を送り出す最も太い血管が大動脈で、その壁がもろくなり膨らんでこぶのように突出したり、風船のようになった状態を大動脈瘤といいます。原因の多くは高血圧と動脈硬化です。5cmまでの場合には経過観察、5cm以上になると精密検査の上、治療が必要です。
先生からのコメント
慢性肝機能障害を指摘され糖尿病などのリスク因子がある場合は、1年に2回の検査をお勧めします。また膵嚢胞性腫瘍を指摘された場合や、膵悪性腫瘍の家族歴が濃厚な場合も繰り返し検査を受けていただく必要があります。
●●この記事を監修した医師●●
MYメディカルクリニック
栢木真太郎先生
医学博士
浜松医科大学医学部医学科卒業
東京大学医学部附属病院などを経てMYメディカルクリニックにて主に消化器を専門にして勤務中。
さいごに
腹部超音波検査は痛みもなく被ばくのおそれもないながら腹部の臓器をリアルタイムで観察できる検査であるということがおわかりになりましたでしょうか。疾病のリスクが特に高まる40歳以上の方は年に1度は腹部超音波検査を受けておきましょう。